コラム:高円寺にまつわるエトセトラ Vol.2 ~いちごの唄~

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このコラムでは筆者である山﨑あすみが、高円寺にまつわる様々なことについて、特に大好きな音楽を交えつつ綴っていくものです。時々お付き合いいただければ幸いです。

先日(といっても1ヶ月くらい前)、7月5日に公開される「いちごの唄」の試写会にお邪魔してきた。

コウタは不器用だけど優しい心を持つ青年。たったひとりの親友・伸二は、中学生の頃2人が"天の川の女神"と崇めていたクラスメイトの千日を交通事故から守り亡くなった。10年後の七夕、伸二の命日。コウタと千日は偶然高円寺で再会する。「また会えないかな」「そうしよう。今日会ったところで、来年の今日...また。」毎年ふたりは七夕に会い、環七通りを散歩する。しかしある年、千日は伸二との過去の秘密を語り「もう会うのは終わりにしよう」と告げる...。(公式ウェブサイトより

あらすじにある通り、この映画の舞台は高円寺で、それがご縁でこの試写会にお邪魔させていただいたのである。ありがたい。

今回主演を務める古舘佑太郎は、俳優業のかたわら、現在「2」というバンドのフロントマンを務めている。いや、バンドをやりながら俳優もやっている、という方が正しいのかな。わたしは、古舘佑太郎の、わりと古くからのファンである。多分だけど、彼が出しているCDは(メジャー流通盤のものは)全て持っている。

遡ること10年前、東京FMで現在もオンエア中のラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」主催の"10代限定の夏フェス"「閃光ライオット」(現 未確認フェス)に、彼の組んでいた前バンド「The SALOVERS」が出演していた。「あ、この人たち好きかもしれない」と、ラジオで初めて音源が流れた時から思っていて、それからずっと追いかけていた。審査員特別賞を受賞してから発売した初の全国流通盤「C'omon Dresden」は、わたしの青春ど真ん中、高校2年生の時にリリースされたものだ。

メロディはもちろんのこと、当時の自分には彼の紡ぐ歌詞がグサグサ心に刺さっていた。聞けば当時のことを思い出せる、思い出のアルバムだ。その後、いくつかのシングル/アルバムのリリースを経てメジャーデビュー。2013年に発売されたメジャーファーストシングルの「床には君のカーディガン」は未だに自分の再生回数のトップに入るほど聞いている。

バンドは2011年3月に「無期限活動休止」を宣言。もちろん、活動休止前のラストライブ「青春の象徴 恋のすべて」はもちろん行った。終演後にダニエル・ビダルの「オー・シャンゼリゼ」が流れるとともに壁面に彼らの写真がスライドショーのように流れるのを見て、ちょっと泣いた。

その後、古舘個人での活動として、2枚のソロアルバムを出したり、そうしている間にNHKの朝ドラ「ひよっこ」に出たりと、俳優としても活躍しだしているじゃん?と思っていたら、2017年3月にバンド活動再開、というか新バンド結成のお知らせ。それが今、彼が組んでいるバンド「2」である。2になってからは、結構な頻度でライブに行っている。少なくともワンマンは全部行っている。

彼の紹介だけでかなりの文章量になってしまった。本題に戻ろう。

作中の「コウタ」はとても真っ直ぐな少年だ。真っ直ぐで、だからこそ不器用で、だからこそ優しくて、周りの人に愛されているのだと思う。もちろん彼に対して冷たい人もいる。世間とは優しい人ばかりではないし、優しいが故に生きていきづらい部分もたくさんある。それでも、周りの力で曲げることのできない彼の真っ直ぐな部分は、少なくとも彼の親友である伸二や、大人になって再会した千日の「救い」になっていたはずなのだ。

古舘の歌を聞くとわかるが、彼はとても真っ直ぐな声をしている。彼のパーソナルな部分は知らないが、彼のいつまでも変わらない真っ直ぐな声は、コウタの前を向く力強さと優しさを想起させると思う。というわけで、興味のある方は一度聞いてみてほしい。勝手ながら、YouTubeで聴ける彼の歌っているおすすめの曲をいかにまとめさせていただいた。

本作の脚本である岡田惠和は、古舘のことを「特定の色に染まっていない点が魅力」と語った。確かに、俳優としての古舘の活動はまだ浅い。それ故に、これだ!といえるようなイメージはついていない。きっとこれから先も、バンド活動と並行して俳優業は続けていくのだろう。いつか、彼を表すような一言がでてくるのだろう。ただ、この先彼がどんな風に言われようと、彼の真っ直ぐさはいつまでも変わらないでいてほしいと、願ってやまないのだ。

映画本編にほとんど触れないまま終わりを迎えてしまった。冒頭にも書いた通り、「いちごの唄」は7月5日に劇場公開。都内では新宿ピカデリーや吉祥寺アップリンクなどの劇場で公開される。今回の写真は、作中で重要なシーンとなっている、高円寺のとある場所。この場所がどんな意味をもつのか。内容についてはこれ以上触れないので、ご自身の目で、映画館で確かめていただきたい。

実際に中央線沿いに住んで空気感を掴もうとした古舘の話だったり、環七通りのロケが大変だったーとかいう撮影の裏話は、多分この先いろいろなインタビューで見かけると思うので今回は割愛させていただいた。劇中音楽を峯田和伸(銀杏BOYZ)が担当した、という話もたくさん書きたかったが、それはまたの機会に。

上映中、スクリーンをよくみると、高円寺に馴染みのあるアーティストがギター片手にチラッと映っていたような気がした。


映画:いちごの唄
2019年7月5日〜 新宿ピカデリー他上映
いちごの唄・公式ウェブサイト / 上映館(関東)


<テキスト:山﨑あすみ